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もじもじ

初めてのカウンターで
もじもじしている
見知らぬ常連さんたちに挟まれ
もじもじしている

メニューに目を通す前に
飲み物を聞かれもじもじし
聞いたことのない名前の食べ物に
箸とフォークとスプーンを握り
もじもじしている

転校生のように赤面し
名前と出身と趣味にもじもじし
トイレと言い出せずに
笑いながらもじもじする

いつもの電車の中で
吊り革もつかまずに立ち続け
アナウンスを聞かなくても
自分の駅で降りられるようになったら
もじもじしたほうがいい

目的地までの道のりを
うつむいたまま歩けるようになったら
もっともじもじしたほうがいい

見たこともないトイレの機能に
どう始めどう終わればいいか分からず
もじもじしたらいい

怪訝な瞳が
夜空の星たちのように見下ろしてくる
手の平のカンペは汗で消え
地球の上でもじもじする

ウサギ

雨降りの平日の夜は
訪れる人なんかいなくて
電話も鳴らなくて

窓ガラスの水滴に散りばめられる
路駐の点滅ライトが
流星群のように落ちていく

わたしは瞬きしない瞳で
瓶を鏡のように磨いていき
想像を仕事上がりの一杯に伸ばすと

柵の向こうへつながる
トンネルへと変える
嗅いだ気分で鼻を動かす

24時間が皆に平等に存在することが
不平等な夜もあり
取り残されるような地面の下から

雲の向こうの餅つきを望むが
雨はひとりを強調するだけ
ウサギは寂しいと死ぬらしい

このままお客が来なければ
本当に命が危ないだろう
天気予報に思いやりはない

馬刺し

オオカミになれる気がして
茶色い皮で覆われる下の
恋のように真っ赤な肉を噛む

他人の血と甘い脂が
唇のように重なり
思わずまぶたを閉じる

現実を間近で直視すれば
皺とシミが味覚に勝り
妥協する自分が見えるだけ

馬刺しが美味いのは
完全な生だからだ
焼いてしまったらもういったい

誰の肉だか分からない
中途半端に硬い塊なら
自分の肉を食っても変わらない

生の獣のしたたりが
体中の血管をまさぐっていく
心臓を雑に揉んでいく

オオーンとわたしは
遠くの闇に呼びかけ
静かな街を確かめる

脱出

連日の雨に幽閉され
萎れていた大地に切れ間から
ご無沙汰の光が舞い降りる

見上げているだけだったボクらの翅は
透明からみるみる虹色に変わり
武者震いのように肉体が叫ぶと

ベランダから飛び立っていく
ソファに腰掛けている場合じゃない
布団に溺れている暇はない

森の中の酒場には
クマが取れたてのハチミツを持ってきているだろう
ひんやりとした落ち葉に

乾杯の威勢が響き
土瓶蒸しの松茸は香り
染み込んでいた雨が泡になって弾けていく

脱出してきたモノたちで
夕焼けの下は満席だ
新しい翅音と足音が加わり

歓迎の拍手は
祭りの手拍子へと繋がっていく
星も今夜は脱出してきた

また明日から
色々な雨粒がボクらを閉じ込めるんだ
狭間の晴れ間でボクらはけたけた笑う

安室奈美恵

毎日立ち続ける
自分の名前を冠したステージから
わたしはいつか引退する

彼女みたいに
傍から見ればまだ続けられそうな身体で
引退を告げられたらいいのに

観衆を目の前にしたステージの後に
もう一つのステージがあればいいのに
わたしのステージはこれだけで

さようならと手を振るのは覚悟がいり
杖無しでは動かない足と
同じ歌詞を繰り返す頭で

日々のステージに立ち続ける
チケットなんて誰も買わないから
むしろ看てくれる人にお金を渡す

一度引退し
忘れられた頃に
復活ライブができるほどステージはあまくない

明日もまた立てるよう
取り組むリハビリの先に
彼女とは違う輝きの引退が待つ

Appendix

プロフィール

山本

Author:山本
詩人の山本です。
言葉の楽しさ、言葉の芸術性、それを追求したものが詩だと思います。一般の読者に閉鎖的な作品ではなく、絵描きの絵の具、音楽家の音符、演奏家の楽器、写真家のカメラのように言葉を使い、読者に伝わる作品、読み手の背景で変わる風景を描いていきたいと思います。

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