落とし物が
見つかりましたと
交番から連絡があった
私はいったい
何を失くしたというのか
見当もつかないのに
お巡りさんは
目の前に紺のバッグを置き
アナタのですよねと
確認する
名前と連絡先が
アナタになっていると
そう言われると
持っていたような
ある日どこかで
失ったような
バッグの中には
辞書が一冊
金目のものは
なにもございません
バッグを受け取り
背負うと
確かに以前
肩に感じていた
重さに似ている
可能なら
すぐにでも下ろし
休憩したくなる重さ
家に着くと
汗が溢れだす
交番まで行ったのなら
途中で
アイスでも買えば良かった
少し贅沢に
カップのバニラアイスを
毎日のように
顔を合わせていると
気づかないけど
久しぶりに
自分に会うと
挨拶より先に
「変わったなぁ」と
つぶやいてしまった
過去の自分は
あの時のままだから
「変わったなぁ」は
そのまま今の
自分にブーメラン
あの時何を考えていましたか
どういう意図で
あの作品を作っていましたか
あの時伝えたかったことは
改めてあの作品を観て
今なら何を変えますか
あの時学んだことが
その後どう役に立っていますか
ふり返れば
ふり返るほど
立派な自分がいて
未熟な今の自分に
何か言う資格なんてない
それでもボクは
親が自分の子を
誇るように
あいつも頑張ってましたよと
過去の自分を
褒めてみる
「まだまだ、でしたけど」と
作ることが
創るためではなく
生きるためになったとき
主張は少し
綺麗になるのかもしれない
と、それは
覚悟の問題だ
タンポポは
駆除対象の雑草らしい
ボクはその茎をつみ
綿毛を風に飛ばす
白いトレーに
血を滲ませ
目を見開いた鯵が
訴えてくる
俺に再起は
もう無理なのかと
君は死んでいるからね
わたしは答え
鮮度を確認する
身体は動かなくても
気持ちは生きている
そう主張する
君の尾びれは
今にも泳ぎだしそうだ
家へ戻り
ぜいごを取り
頭を落とし
はらわたを抜く
死んでいた以上に
君は死体になり
調味料の水面に
君の胴体は浮かび
わたしは
生姜の献花を添える
炊き立ての白米と
食べられることを
君は再起と
呼ばないだろう
爪楊枝で
君の欠片をほじくり出す
食べるのは
あっという間
海の中では
君がまた生まれていく
主張を失った花は
ただ風に揺れ
曇天に動揺し
雨に打たれ
花弁を散らしていく
タンポポは
主張を続けている
空き地を占拠し
河原にテントを張り
アスファルトの割れ目から
拳を突き上げ
声を響かせる
ボクらの差す傘は
なぜこんなに
地味になったのだろう
数日の雨が終わり
タンポポは
皆
白髪を膨らませると
自分の声を
風にのせる
綺麗なら
主張はいらないと
平和主義の花は言い
写真を撮られ
拡散される
ネットに吹かれ
種は今や
世界へ蒔かれていく
野球は
九回ツーアウトからでも
結果は変わる
どれだけそれまで
ゼロが並んでも
ゼロの積み重ねが
逆転に
繋がる瞬間がある
(もちろん
そうならないことが
多いのも事実)
最初から
九回ツーアウトの気持ちで
打席に立てよ
なんて
キミの応援は厳しい
でもそれなら
とっくにゲーム終了で
ボクは指導者にも
解説者にもなれず
外野の一番安い席で
ビールを飲み
野次を飛ばすだけに
なっているだろう
神様はいないから
ムラカミ様もニンゲンで
打てないことの先に
逆転打があった
もちろん
それは野球の話
ボクの人生は別